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「しかし、一体誰が春の野原に咲き乱れる花を小さな器にとじこめようなどと考えついたのだろう。」 小宇宙の中の花 手にすれば確かな重さと、ひんやりした感触が心地良いクリスタルガラスの球体。 太古より人を魅了し続ける、宇宙的なかたち、球体。しかもその内に、ガラスの花が咲く。それは永遠の花、シンボリックに昇華された、生命の輝きそのものの花である。ドライフラワーを樹脂で固めたものの卑俗さと較べてみるが良い。一方は死んだ花の残がいに過ぎない。だが、このガラスの球体には、ガラス工芸家の創造への意志が宿る。造物主の枝をまね、完全な小宇宙を生みだそうとする意志である。花は、死と再生をくり返す生命力の顕現として、この創造の場に立ち合う。これらガラスの花々は、植物から一瞬の輝きと永遠の命の力だけをとりあげ、結晶化したものに他ならない。 ガラス工芸の極致
球のままのガラスはマーブルまたはスフィア(ラテン語の『球』)と呼ばれ、底を平らに削ったものはペーパーウエイトと呼ばれる。だが紙を押さえる実用の目的は二の次、工芸家は自らのポリシィをこめたエンブレムとしてこれを造り、コレクターはその意匠の見事さを愛でる。 流行したのは十九世紀初めだが、ガラスの花の技法は古代より息づく。例えばミルフィオリ。イタリア語で「千の花」を意味するこの技法は、細いガラス棒を何本も組み合わせてひきのばした「ケーン」と呼ばれるパーツを輪切りにし、小さな花のような薄片をさらに何百も並べて完成される。まさに「千の花の野」をガラスで再現しようという企みである。 あるいはバーナーワーク。炎の上でガラスのパーツを溶かし、植物そのものの姿を忠実に造りあげてゆく。十九世紀のアーツ・アンド・クラフツの時代にバカラやサン・ルイの工房で造られたバラやパンジーやクレマチス、プリムラなどの花々は、まさにその時代の園芸の流行を反映したクラシカルな姿である。 グラスマーブルやペーパーウエイトの流行は1860年ごろからなぜか衰退し、技法も一度すたれてしまう。1950年になって、ひとりのアメリカ人の情熱により復興が試みられ、現在は、二度めの流行のさなかにある。 |
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