サザンとうきょう
そぞろあるき

Produced by SHIN-YO
photo:Vol.1~5 坪内二郎
photo:Vol.6~8 鳥羽雅行

冊子「そぞろあるき」は A5判16ページ。大田、世田谷、目黒、品川区内にある 「花キューピット サザンとうきょう」メンバーの花店で、毎年9月から12月の間お客様に配っています。綴じ込みで付いている、豪華プレゼントの当たる懸賞ハガキが人気。
 
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そぞろあるき
花を贈る 花を楽しむ 花を買う 花と暮らす

●妖精たちの花あそび

いつもは何気なく眺めている花をじっと見つめてみる…。瞬間、花の中に妖精が 見えたような、花自体が妖精に見える錯覚を覚えたことはないだろうか。もし、蝶や鳥の目線になれたら…そして、妖精 たちの世界が覗けたら…。 
  人は昔、恐ろしい自然界の不思議な現象に自分と似たような生き物の形や存在を与え、不安を減少させた。西欧では人間の運命を左右するような大きな力、人間を惑わす不思議な力を妖精(フェアリー)がもつと考えた。その語 源は、ラテン語の「運命」や「誘惑 された」の意味をもつ。

ケルトは、非常に古い3千年以 上の 歴史をもつ民族である。紀元前600~300年頃、ブリテン島およびアイルランド島に定住したケルト民族を「島のケルト」と呼ぶ。ケルトの神話では、妖精はダーナ女神の巨人親族であった。彼らはミレ族(アイルランド民族の祖先)との戦いで敗れ、地下に逃れてやがて目に見えない種族「妖精」となる。土や農耕の神と慕われていた彼らも、次第に忘れ去られて縮んでいき「リトルピープル=小さい人たち」となった。このケルトの数々の伝説が妖精の生まれる大きな淵源だと言われている。

その周辺の地方でも独特の妖精を生み出していく。強力な自然の力を持っていた彼らは恐れられ、人々は妖精の機嫌を損ねないように「善いお隣さん」と呼び、彼らの名前を秘密にすることが多かったという。

その後、シェークスピアの『夏の夜の夢』に登場する妖精の侍女たちは「からし種」「豆の花」「蜘蛛の巣」「蛾の君」という名前で植物や昆虫のように可愛らしく変化した。女王のベッドは甘い香りのスミレやスイカズラ、ジャコウバラの天蓋でおおわれ、月夜の野原で歌い踊る。妖精達は、人なつこくてイタズラ好き。人間でもあり人間でもない。昼でも夜でもない世界に住んで人間が存在する限り存在する。 

 見られる事を嫌う妖精は、まばたきとまばたきの間にしか見る事ができない。日の出に摘んだ四つ葉のクローバーを、頭にのせると会えるかもしれない。 ここで紹介する小さな小さなアレンジメントは、妖精に近づくためのひとつの手段かもしれない。

 

●参考文献 妖精の国の扉・フェアリーランドへ導く九つの鍵
          (井村君江著・大和書房)
         妖精学入門
          (井村君江著・講談社現代新書)
         ヴィジュアル版・妖精たちの物語
          (ビアトリス・フィルポッツ著/井辻朱美監訳・原書房)

●花の伝説

昔から神話や物語に 語り継がれてきた可憐な花たち。

愛、生、死そこにある普遍的なテーマには、不思議な力をもつ植物への、畏敬の念が感じられる。
いにしえ人は、花に 何を託したのだろう。

アネモネ イラストアネモネ Anemone

英語では「風の花」、ドイツ語では「小さな風のバラ」とよばれるアネモネ。美しい名前の由来は、風を意味する「anemos」という古代ギリシャ語にある。
  はかなげに風に揺れるその姿にふさわしく、「妖精の花」伝説も多い。花びらを飾るピンクの線は妖精の指が描いたもの、雨の日や夜に花を閉じるのは、アネモネの葉に住む森の妖精がカーテンを閉じるから、などという言い伝えが受け継がれている。

ウェヌス(ヴィーナス)の涙から生まれたとしているのはギリシャ神話である。ウェヌスに愛された美しい神アドニスは、ある日、野を駆け巡っているうちにイノシシに突かれて命を落としてしまう。愛する人を失い、嘆き悲しんだウェヌスはたくさんの涙を大地に流した。水晶のようなその涙を蒸発させるのを惜しく思った大地の神は、その涙をアネモネの花に変えたという。

この話には、ウェヌスがアドニスの血からアネモネを創ったという説もあるが、いずれにしてもアネモネはウェヌスの愛の象徴と考えられ、古代人はアネモネをウェヌスの祭壇に飾ったり、死者のための花輪にしたりしていた。人々はこの花に永遠の命を託していたらしく、ドイツでは「牝牛の鈴」と呼び復活祭の牛の花輪を作るために用いられた花のひとつであった。現在でもオランダなどはアネモネを復活祭の花として用いている。

もうひとつのギリシャ神話では、西風ゼピュロスの恋の相手としてアネモネが登場する。花の女王クロリスの宮廷に、ある美しいニンフが仕えていた。ゼピュロスは彼女をみそめたが、クロリスは彼の愛が自分にないことに嫉妬してニンフを追い出してしまう。涙を流すニンフを哀れに思ったデピュロスは、彼女を花の姿に変えた。はかなくも美しいその花こそアネモネだったのである。

ヤグルマギク イラストヤグルマギク Corn flower

ナポレオンの侵攻から逃れ、麦畑に身を隠したプロシアのルイズ女王は、子どもたちのためにヤグルマギクで花輪や冠を編み、退屈をまぎらわせた。その子どものひとりで、後に統一ドイツ初の皇帝となったヴェルヘルムはこの花を愛し、ヤグルマギクを紋章にしたのである。 この花の美しい青色は、希望を育む細やかな共感を象徴している。
  こうした史実をもつヤグルマギクには、学名の元となったギリシャ神話がある。半身半馬のケンタウロス族のケイロンは、百の頭を持つ怪物ヒュドラの血をぬった矢で毒殺されてしまうが、ヤグルマギクの花で傷口を覆って蘇生した。属名「セントーレア」は、このケンタウロスのケイロンに因んだものである。

一方種名「キアヌス」の由来はこうだ。キアヌスという若者が、花の女神フローラに心酔するあまり、この花が咲く麦畑を離れずに、毎日ヤグルマギクの花輪を捧げていた。しかしある日、作りかけの花輪を抱いたまま息絶えてしまう。フローラはこれを聞いて、彼が抱いていた花に彼の名をつけたのである。

スミレ Violet

かのナポレオンに「ヴァイオレット伍長」のあだ名があっ たことをご存じだろうか。彼はスミレをエンブレムに用い、エルバ島に追放された時もこの花が咲く頃戻ってくると宣言した。家臣たちはスミレの花を介して、ナポレオンへの忠誠心を示したという。

世界のほとんどの地域に分布するスミレには、各国に伝説が残されている。古代ローマやペルシャではバラと同 じように崇拝され、名誉ある花として詩人たちに謳われた。

ギリシャ神話では、月の女神ディアナが、お気に入りのニンフが日の神の罠に落ちるのを救うため彼女をスミレに変えたとされている。別のギリシャ神話もある。全能の神ゼウスが、イオという美しい巫女を愛したが、ある日、それが妻に見つかりそうになり、イオを雌牛に変えてしまった。空腹で身をかがめたその雌牛の香しい息吹が草に触れると、そこから白いスミレが生まれたという。

北欧の伝説ではこうだ。サクソンの城に住んでいたチェルネボーという神は、キリスト教の高波が押し寄せた時城とともに岩に変えられてしまった。しかし彼の美しい娘は1本のスミレに化身して難を逃れた。以来このスミレは百年に1度だけ花開き、摘んだ者にはその娘と富とが与えられるという。

ネイティブ・アメリカンにはこんな悲恋物語が伝わっている。ある若き英雄が他の部族の一人の美しい娘をみそめた。ある日、森へさまよいこんだその娘をつかまえ自分の村へ向かって走った。ふたりに追いついた娘の部族は、怒り狂い彼らを殺してしまう。なぜなら、娘が結婚の印として自分のお下げ髪を若者の首に巻きつけていたからである。春になると、ふたりの死体があった場所から1本のスミレが咲いた。この花の紋様がお下げ髪のように見えるのは、それが若者の首に巻きついた愛の鎖だから。彼らはスミレを「からみあった髪」とよび、愛と勇気と献身の象徴としている。

ユリ Lily

聖母マリアの墓が、ユリとバラで埋めつくされていたという奇蹟の花ユリ。キリスト教世界ではマリアの気高さと純粋さを象徴する花で、白ユリの俗称であるマドンナ・リリー(聖母のユリ)を描いた宗教画もたくさん発表されている。

古代ギリシャやローマでも、ユリは純潔の印だった。また、古代ユダヤでは災わいを遠ざける幸運の象徴であり、スペインでは魔法で獣の姿に変えられても、ユリの力で人間に戻れると信じられていた。

 コーカサス地方では、ユリが乙女たちの恋占いに使われる。選んでおいたユリが雨上がりに黄色い花を咲かせれば恋人の心変わりを、赤い花なら恋人の誠実を示すという。そんな占いの由来を示唆するような、12世紀頃の伝説が残されているのも興味深い。

  ある将軍が部下の息子プリニイを自分の家に連れ帰った。彼はやがて、将軍の娘タマラと愛し合うようになるが、将軍はタマラをほかの男に嫁がせる約束をしてしまう。悩んだ娘は、山に住む僧に相談に行った。すると突然嵐が起こり、稲妻が走った。嵐が収まるとそこにタマラの姿はなく、1本の白いユリが咲いているばかり。従者たちはタマラを返せと僧に迫り、あげくの果てに彼を殺し、あたりに火をつけてしまった。後には、あのユリだけが残されていた。

  驚いて駆けつけたプリニイは、花の前でタマラの名を叫び、はらはらと涙を流した。その涙が地面に落ちるとユリは黄色く色を変え、花の上に流れると喜びで赤く染まった。嘆き悲しむプリニイを哀れんだ神は、いつでもユリに水を与えられるよう、彼を雨雲に変えたのである。  

  後にこの地方に日照りが続いたとき、乙女たちは大地にユリの花をまき、タマラの歌を歌いながら歩いた。するとたちまち雨雲が湧き上がり、温かい雨が降ったという。

●参考文献 花の神話と伝説
         (C.M.スキナー著・八坂書房)
         花精伝説
         (L. ディーズ著・八坂書房)

 

 

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